付録2 国会による継続監視が必要な事項

  今回の事故調査において抽出されたさまざまな問題の多くについては、個々の処理の進捗と実施の状況を国会が継続監視すべきである。以下には、その中でも特に重要と思われるものを例として挙げる。これらが未解決事項の全てでないことは言うまでもない。

  

1. 安全目標の策定

  安全目標は、国民の健康と安全を守る観点から、定性的かつ定量的に策定すべきである。
個々の原子力施設に対しては、かかる安全目標への適合性が示されなければならない。
かかる安全目標の策定とは別に、原子炉事故が現実に発生し得るものであることを前提に、避難や緊急時モニタリングをはじめとした防災計画及び事故に伴う被害に対する適正な補償制度を含む充実した深層防護を確立する。
 

2. 指針類の抜本的見直し

  今回の事故により、原子力安全を担保しているはずの立地、設計、安全評価に関する審査指針など(以下「指針類」という)が不完全で、実効的でなかったことが明らかになった。現行の関係法令との関連性も含め、指針類の体系、決定手続き、その後の運用を適正化するために、これらを直ちに抜本的に見直す必要がある。
  指針類は、新たな技術的知見を踏まえて適宜改訂し、かつそのような技術的知見がない場合においても定期的に見直しを行うものとし、必要なバックフィットを適用することにより、安全目標への持続的な適合を図る。


3.
 バックチェックの完遂と評価結果の公開

  全ての原子力施設の全ての安全上重要な建物・構築物、機器・配管系(以下「施設」という)に関する耐震・耐津波バックチェックについて、事業者における最新の進捗状況の詳細を速やかに公開させ、原子力規制機関においては、その実施内容を厳正に評価し、その評価結果を公開するとともに必要な対策を取らせることが必要である。
そのようなバックチェックに当たっては、ほかの自然現象(過酷な気象現象、地盤災害、火山噴火など)はもちろんのこと、あらゆる内部要因と外部要因についても考慮すべきである。
 

4. 過酷事故対策の先取的取り組み

  今後の過酷事故対策では、地震、津波、強風、地滑り、火山の噴火等の自然現象、火災、内部溢水、デジタルコンピュータの共通起因事象による故障、さらには、テロ攻撃を含めたあらゆる内部、外部、作為的事象に対し、これまでのような対症療法的(リアクティブ)ではない、先取的(プロアクティブ)な対応が必要である。
原子力規制機関においては、事業者のそのような取り組みが可及的速やかになされるよう早急に指針類を整備し、監視する必要がある。
 

5. 複数ユニットの原子力発電所における運転体制の改善

  複数ユニットのある全原子力発電所において、同時多発した過酷事故を想定した対応手順書を速やかに整備する必要がある。複数ユニットにより運転されている原子力発電所では、緊急時に実務を統率することは容易ではなく、特に炉型が異なる場合にはその難度が増すため、発電所ごとに模擬訓練を反復し、それぞれにとっての最善の方法を見いだしていく必要がある。 
 

6. クリフエッジ効果のある事象に対する特別な配慮

  発生頻度は低いが一度起きると甚大な被害を及ぼす可能性のある「クリフエッジ」効果のある事象に関しては、その設計基準の定め方について、特に慎重な配慮が必要である。そのようなクリフエッジ効果のある現象としては津波が代表的ではあるが、そのほものがないか、慎重な洗い出しと検討を行う。
 

7. 地震の誘発事象に対する評価と対策

  地震は、原子力施設に地震動、断層変位、地殻変動(地盤の隆起・沈降)、津波という一次的な脅威を及ぼすほかにも、施設内及び施設外にさまざまな二次的影響を与える。例えば、原子力施設内の土木構造物や電気設備などの地震被災、タービンミサイル、原子力施設外の送電系統やダムの地震被災による外部電源喪失、洪水の発生等、考えられる限りの誘発事象を評価して対策を講ずる。
 

8. 事故解析ツール、モニタリング設備の整備

  各原子力発電所において、各ユニットの過酷事故進展に対しリアルタイムで更新できる予想解析ツールと、そのような解析ツールの活用に精通した専門家を配備する。そのような解析は、原子炉及び使用済み燃料プールにおける事故に対応できるものとする。放射能の飛散状況を予測し、被災拡大を抑制するための解析ツール及びモニタリング設備(環境放射線モニタリング並びに作業者や住民のための身体汚染、外部被ばく及び内部被ばくを測定するための設備)を整備する。
モニタリング設備の整備においては、機種の多様性、設置場所の分散化、情報処理の高速化などを考慮する。
 

9. 通信手段の強化

  災害時連絡回線として、多様な通信回線(衛星通信システム・市町村防災行政無線・J-ALERT)間の相互乗り入れ・共有が必要である。また、緊急時対策本部や事業者とのテレビ会議システムを早期に設置することも有効である。これら通信手段の確保に当たっては、地震対策の徹底にも配慮しつつ十分な防災対策を行い、プラント・事業者本社・オフサイトセンター・緊急時対策本部・被災自治体間での現状把握や情報伝達の手段を確保することが必要である。
中断による影響が大きい、地震・津波の被災者等の救助活動などにあっては、多くの場合、避難指示の発令後も活動が継続されることから、放射線被ばくの危険が増大したときなどの退避命令などの伝達手段として、通信障害発生の恐れの少ない通信手段の確保が重要である。
 

10. 避難区域の設定

  原子力事故発災時の避難の実効性を確保する観点から、避難経路などを含め、避難区域の見直しがなされる必要がある。一定範囲の半径に複数の原子力発電所が存在する地域に居住する住民は、より高いリスクの下に置かれていることになる。このような複数のユニットが集中して設置されている原子力発電所においては、より保守的な安全目標が設定され、避難区域なども見直される必要がある。
具体的には予防的防護措置を準備する区域(PAZ)や20km圏、30km圏の避難区域を設定し、これらを防災訓練に組み込み、住民に周知徹底することが必要である。
 

11. 自力避難困難者の避難支援の整備

  政府においては、避難区域になり得る地域に病院や介護施設が存在することを前提とし、原発立地自治体と連携して、地域防災計画やマニュアルの見直し、訓練、通信手段の整備、事故時に備えた自治体間の連携体制の整備などの緊急時避難体制を構築することが必要である。
20km圏以内に位置する病院が緊急時の患者受け入れ先やそこまでの搬送手段を確保できるよう政府及び自治体は支援体制を整える。
 

12. 生活圏回復のためのアクションプランの構築・遂行

  住民の生活圏回復という視点から、森林、河川・湖沼、農地、市街地などに場合分けした環境放射線モニタリングの結果を基礎として規制基準を設定し、これに基づいて除染などの個別具体的な対策を含むアクションプランを構築し、長期的に遂行することが必要である。
 

13. ヨウ素剤服用体制の整備

  適切な時間内にヨウ素剤の服用ができるように備蓄や事前配布を行うほか、連絡網、通信網を整備し、事故の状況に応じてヨウ素剤の服用指示が対象住民に適切に届くように準備、訓練を行うなど、緊急時の不手際が発生しないような体制を構築する。
 

14. 免震重要棟の整備

  今回の事故を超える過酷事故を想定し、免震重要棟の電源、正圧環境、緊急時(最悪時)にも対応できる体制、ホール・ボディ・カウンター、放射線分析機能、エアラインマスクの清浄設備等について十分な対策を取る必要がある。
 

15. 福島第一原子力発電所事故の未解明問題のフォローアップ

  未解明の部分の事故原因、今もなお続いている事故の収束プロセスの監視について、今後、第三者調査機関による継続した調査検証が必要である。これらの検証は、格納容器又は原子炉建屋内にあるために今後長期間検証できない問題を除いて、早期に行うべきである。併せて、1号機から4号機までの建物と原子炉の耐震安全性評価を行う必要がある。
以下は、未解明問題として、早期に検証すべき事項の例である。

 1)溶融物による侵食が、原子炉建屋の人工岩盤の深くにまでさらに進行した場合、既発生の状況を劇的に上回る規模で、放射性物質が外部環境に放出される可能性はあるのか。侵食が人工岩盤を貫通した場合にはどうか。

 2)原子炉圧力容器を直接支持している鋼製のスカートについては、今般の原子炉事故の進展によってどの程度劣化しているものと推定されるのか。高温のため座屈した可能性などはあるのか。

 3)原子炉圧力容器を支えるコンクリート部材は、どの程度劣化しているものと推定されるのか。現在は問題なくても将来はどうなのか。

 4)ペデスタルのコンクリートはどの程度劣化しているのか。コンクリートが崩れて、鉄筋が座屈してしまうことはないのか。原子炉圧力容器・生体遮へい間のスタビライザの支持能力は低下していないのか。生体遮へい・格納容器間のスタビライザの支持能力は低下していないのか。

 5)水素爆発の原因について、「第4の壁」である格納容器から、「第5の壁」である原子炉建屋への水素の漏えい経路がどこであったのか。このような漏えいが今後起きないための対策は何か。

 6)福島第一原子力発電所4号機においては、使用済み燃料プールに貯蔵されていた使用済み燃料の損傷とそれに伴う影響が懸念されていたと後日報じられている。それは、具体的にはどのような懸念についてであったのか。
 

16. 既設プラントに対する安全性向上のための検討

1)原子力発電所とサイバーセキュリティ
原子力発電所の稼働がコンピュータウイルスにより妨害されるサイバーテロは、海外で既に発生している(2003年の米国デービス・ベッセ原子力発電所、2010年のイランのブシェール原子力発電所など)。ウイルスは制御システムを狙い、原発のみならず、電力・ガス・水道や交通機関等の重要社会インフラをも停止させる威力を持っており、各国も警戒を高め、対策を講じている。NRC(米国原子力規制委員会)は2001年から本格的に取り組み始め、2009年に全原子炉に対しサイバーセキュリティに関する義務化を行い、さらに2010年にはガイドラインを発表している。IAEAも2011年に核施設におけるコンピュータセキュリティに関するガイドラインを発表し、メンバー諸国にも積極的に対策と訓練を行うように促している。日本国内の原子力発電所におけるサイバーセキュリティも世界と同レベルで万全の対策を取っていくことが必要である。

 2)「B.5.b項」の実施とシビアアクシデント対策の構築
「9-11対策」として2002年2月25日付のNRCからの命令書の「B.5.b項」で要求された内部事象に対する対策、外部事象に対する対策、テロ攻撃に対する対策にはシビアアクシデント対策との緊密な共通性が存在している。日本における原子力安全の取り組みにおいても、このような認識に基づくシビアアクシデント対策の構築が将来の不測の事態において役に立つ。事業者における最新のシビアアクシデント対策の詳細を直ちに公開、実施させ、原子力規制機関においてはその実施を厳正に評価し、その詳細を公開することが必要である。以下は、構築すべきと考えられるシビアアクシデント対策の例である。

 1)設計思想の統一化
  • 所外電源と所内非常用電源の優先順位
  • 非常用電源母線のクロスタイ
  • 代替低圧注水系統の仕様(ポンプの最低吐出圧力、最低流量)
2)分散化させた重要バックアップ直流電源の追加
3)高圧注水機能の追加
4)圧力抑制室プール水に対する専用ヒートシンクの追加
5)内部溢水対策
6)中央制御室と同室内電子機器類のためのバックアップ空調設備
7)遠隔停止操作パネルからの主要パラメータ読み取り用バックアップ電源の追加
8)テロ攻撃への防衛