サマリウムの作業場所における線量評価について
1.概要
地殻を構成している天然鉱物等の中には、多くのレアアース金属が含まれており、その内、サマリウムは金属単体の状態では、含まれるサマリウム-147(Sm-147)による放射能濃度が、国際基本安全基準における規制免除レベルを超える。
そこで、サマリウム金属を利用して製品を製造している合金製造工場及び磁石製造工場における作業に係る被ばく評価のための調査を実施した。
なお、Sm-147はα線のみを放出する核種であるため、内部被ばくのみが問題となる。調査として粉塵が発生する作業位置における空気サンプリング及び床等の拭き取り(スミヤ)を実施し、サマリウムの空気中濃度及び表面汚染密度を求めた。
なお、試料の測定及び線量評価については、日本原子力研究所において実施した。
2.測定と結果
測定方法としては、各製造場所の粉塵が発生する作業場所数ヵ所において、エアサンプラにより作業場所の空気を捕集したフィルタ及び作業場所周辺の床等を拭き取ったろ紙を化学処理したのち、ICP質量分析法及びICP発光分析法でサマリウム量を定量し、そこからSm-147の量を求めた。
求めたSm-147の量から作業場所ごとの表面密度及び空気中濃度を算出した。そのうち最大の測定結果を表1示す。
表1 Sm-147の最大表面汚染密度と空気中濃度
| 採取場所 |
表面汚染密度 |
空気中濃度 |
| 合金製造場所 |
0.02 mg/cm2
(1.5x10-2 Bq/cm2) |
3.9x10-12 g/cm3
(3.1x10-9 Bq/cm3) |
| 磁石製造場所 |
0.4 mg/cm2
(3.5x10-2 Bq/cm2) |
2.1x10-11 g/cm3
(1.7x10-8 Bq/cm3) |
*現行法令の表面密度限度α:4 Bq/cm
2、空気中濃度限度Sm-147:3x10
-6
Bq/cm
3 、搬出密度限度α:0.4 Bq/cm
2、排気中濃度限度Sm-147:1x10
-8Bq/cm
3
3.被ばく線量
被ばく線量評価は内部被ばく線量評価コード(INDES ver.4.1)を用いて算出した。
サマリウムの空気中濃度をC(g/cm
3)とし、次の式で年間実効線量E(Sv/y)を計算した。
| |
E=C・B・t・e/f

B:呼吸率(m3/h)
t:年間作業時間(h)
e:実効線量係数(Sv/Bq)
f:マスク防護係数(-)
ASm: Sm-147の採取量(g)
NA:アボガドロ数(6.02x1023)
T1/2:Sm-147の半減期(1.06x1011 y)
MSm:Sm-147の質量数(147)
V:捕集空気量(m3) |
計算条件として粒子径1μm及び50μm、年間作業時間を2,000時間、呼吸率を1.2 m
3/h、マスク防護係数を10
1)(半面マスクにおける最小値)を用いた。
表1で示す空気中濃度を用いて算出した実効線量の計算結果を表2に示す。
表2 Sm-147による実効線量(μSv/y)
| 採取場所 |
防護マスクの着用 |
粒子径 |
| 1μm |
50μm |
| 合金製造場所 |
なし |
66.9 |
10.3 |
| あり |
6.7 |
1.0 |
| 磁石製造場所 |
なし |
380 |
58.5 |
| あり |
38 |
5.9 |
3.まとめ
サマリウムはほとんど酸化物の状態で輸入されており、希土類鉱物であるモナザイトやバストネサイトから産出国でレアアース金属の酸化物を生成して、ウラン、トリウム等の不純物は取り除かれている。現在主要な輸入国は中国であり全体の3分の2以上を輸入している。
サマリウムは、酸化サマリウムからセラミックス材料を製造し、金属サマリウムからコバルト等と合金をつくり、磁石を製造している。磁石は様々な分野で利用されている。
ここで、Sm-147による被ばくが問題となる製造工程で粉塵が発生する作業場所の線量評価を行なったところ、合金製造場所では、取扱う粒子径が大きい(50μm)場合で、マスクが無くても年間約10μSv程度の被ばくであり、仮に粒子経が1μmになっても年間100μSv未満である。また、磁石製造場所では、油のミストが付着しており濃度を高めたようであるが、粒子経が1μmになっても年間1mSvを超えることはないことがわかった。
なお、この評価はかなり保守的な仮定をしており、実際の現場では、複数の人が交代で作業を行い、またその作業場所での作業時間もかなり短い。さらに、マスクを着用すれば約1桁線量を下げることができるため、作業者の安全は確保できると思われる。
現在磁石を製造した際に出る屑は、回収業者に引き渡されている。また、リサイクルの過程で粉砕処理されることも考えられるため、今後それらの調査が必要と思われる。
参考文献
| 1) |
村田幹生、池沢芳夫、吉田芳和:”着用時における浄気式全面、半面マスクの防護性能”、保健物理、14,115-124(1979). |
ページの先頭へ